◆ 熱と意気を持ち、純真であれ
初級士官は、一艦の軍規風紀・元気の根源であることを自覚し、青年らしい純真さと若々しさの中に、熱と意気を失わず、勤務に精励せよ。
◆ 常に修養に努めよ
常に自啓自発に努め、士官としての品位を保ち、清廉潔白の風を養い、厳正な態度動作を心掛け、公正無私を念とし、功利打算を脱却することに努めよ。
◆ 広量(ひろしりょう)大度(だいど)で常に快活であれ
狭量は艦(隊)の統制を乱し、陰欝は士気を沮喪(そそう)させる。忙しい艦(隊)の中にも伸びのびした気分を漂わす様注意せよ。日常は細心でなければならないが、コセコセすることは禁物である。
◆ 礼儀正しく、敬礼は厳格であれ
厳格な敬礼は、規律の第一歩であり、正しい秩序は礼儀によって保たれる。初級士官は常に謙虚な心構えで上司及び同僚に対し、親しい中にも礼儀を失わず、上下一致の源泉となる様努力せよ。
@ 上の人の顔を立てよ、良かれ悪しかれケップガンを立てよ。
A 上級者との対談中は親密な態度になっても、その前後には厳正なる敬礼、特に左手の「ポケットハンド」は禁物。
B 上官に提出する書類は必ず自分で直接差出せ。質問又は訂正があるかも 知れない。
◆ 旺盛な責任観念を持て
旺盛な責任感を持つことは、艦(隊)務の遂行上、第一の要素である。責任観念は、自己の職務に対する誇りと、その本文を全うしようとする心構えから生まれる。一つの命令を下し、あるいは命令を伝達しようとする場合、その遂行を最後まで見届ける必要がある。このようにして、はじめてその責任を全うしたものといえるのである。
◆ 進んで難事に当り、常に縁の下の力持ちとなれ
艦(隊)内各部の配置及び諸作業は、実に千差万別である。各自がその配置において、それぞれ全能力を発揮することによって、全艦の全能力を発揮できるのである。これが為には私慾にとらわれることなく、素直に物を考え、正しく物を見て、どんなに苦しい立場におかれても、すすんで難事に当る覚悟と縁の下の力持ちになるという犠牲的精神を持たねばならない。
◆ 日常座臥(ざが)、研鎖に努めよ
@ 日常の艦(隊)務そのものが勉強であることを銘記し、忙しい時程自分の修養ができると考え、常に寸暇を利用して、自己研鏡の資とすべきである。
A 日常研鑽の資料・成果などは、常に整理して記録にとどめ、後日の参考にするがよい。
B 何事によらず、一事に通暁徹底し、第一人者となる心構えで努力すれば、ついには万般に通ずることができる。
C 失敗の多くは、得意慢心の時に生ずる。艦(隊)務にも多少慣れて、自己の力量に自信を持つ頃になると、ともすれば先輩の思慮がかえって愚かしく見える時がある。これこそ慢心の危機に臨んだ証拠であり、最も慎むべきときである。かかる時は、よく先輩の意図の理解に努めると共に、進んでその教えを乞う、謙虚にして熱心な態度が必要である。決して人を侮ったり、軽卒に批判すべきではない。
D 一日に30分でよいから読書する習性をつけ、判断力の涵養に努めなければならない。研究会や講話にはできるだけ出席せよ。教養を高めるためには、単に専門分野をのぞいているだけでは不可である。
E 平素、研究テーマを持ち、その研究の成果をまとめ、後に気づいた点は追加訂正しておく習慣をつけておけば、物事に対する思考力の涵養に役立つばかりでなく時に思わぬ貴重な資料となる。
◆ 信ずるところを断行せよ
事象の千変万化する海上生活においては、熟慮断行の余裕のない事が多い。日常研鑽によって得た信念にもとづいて、迅速果敢に決断をせよ、また如何なる場合にも、士官たる者は率先垂範が必要であり、躊躇(ちゅうちょ)逡巡(しゅんじゅん)はますます、消極的気分を助長させる。信ずる処を断行して経験を深めよ。
◆ 報告はマメに行なえ
上級者は常に下級者のすべてをみているわけではないが、それらの行為に関して全責任を負っている。従って上級者は下級者の些細な行動まで充分に把握しておく必要がある。
何か起ったら必ず上官に報告せよ、また作業が順調に進んでいる時でも「異常なし」と云うことを報告せねばならない。
◆ 骨を惜しむな
乗艦(赴任)当時はさほどでもないが、少し馴れてくると、とかく骨惜しみする様になる。一度、骨惜しみや不精をすると、それが習性となり容易に抜けきらないものである。身体の汚れるのを忌避する様ではおしまいである。
◆ 自身で問題を解決せよ
ある問題に遭遇したならば、その事が上官の裁決を必要とする場合でも、できるだけの情報を集めて、自身で考えた最良の手段を示す必要がある。何か事が起きた場合、みずから考える事をせずして「どうしたらよいでしょうか」等と伺いをたてる者があるが、その様な士官は、将来重い職責を課せられた時、適切な判断を下すことが出来ない。
◆ 命令は忠実に、その実施は拙速・確実であれ
@ 上司から調査又は立案等を命ぜられた場合は、すぐ実施せよ。「明日にてなさん」は、禁物なり。
A 上司の希望であっても、命令と考えて実行せねばならぬものがある。よく上司の意のあるところを察知する努力を欠いてはならない。
B 上司には誠実な尊敬をもって接すべきである。意見の相異があれば卒直に述べて教えを請うべきである。部下の前で上司の悪口を云う様な事は、天に向って唾をするにひとしい。深くいましめるべきである。
◆ 船乗りらしくあれ
シーマンシップとは、船乗りとして常に持たねはならぬ心構えとわきまえて、日常これを実践することが大切である。昔から「スマートで目先がきいて凡帳面、負けじ魂これぞ船乗り」といわれているが、これをそのまま実行すれば良いのであり、船乗りとして欠くことのできない能力の養成と共に、絶えず心掛けねばならないことである。
◆ 技術に対する関心を深めよ
用兵者は、とかく用兵術の研鑽のみにとらわれ、技術への関心、研究をおろそかにしがちである。与えられた兵器、計器をして最高度に能力を発揮させる為には、そのすべてを詳細に知らねばならない。さらに兵器、計器の進歩には用兵者の一層の理解協力が必要である。
◆ 回覧類は熟読せよ
回覧類は必ず目を通して、必要なところはメモして置け、これをよくみていないが為に、当直勤務に間違いを生じたり、大切な書類の提出期日をあやまり、将来勤務上必要な時の用に立たなくなったりすることがある。
◆ 小言をいわれるうちが花である。
初級士官時代は新しい経験の連続である。失敗をおそれ、また上司に叱られることや部下や同僚に笑われることなどを恥かしく思うような態度では、遂には消極の淵にはまり込んで任務が全うできなくなってしまう。何事にも意気と熱で積極的に体当りせよ。これによって得た教訓は将来の勤務を全うさせる、かけがえのない力となる。青年将校が積極性を失うに至れば、青年将校たるの真価を失ったと云うべきである。留意すべきは失敗後、其の原因状況その他充分研究し、此のことに関しては以後再び繰り返すことなく完全なる自分の知識とすることは更に肝要な事である。
◆ 良き当直士官たれ
当直に立つときは、その責任の重大性を自覚し、万事手際よくさばき、ミスなく処理に当れ。当直中、何事があっても沈着果断に処する為には、あらゆる状況を想定した腹案を持っていることが肝要である。
◆ デアル、ラシカレ主義で行け
少尉は少尉である。中尉は中尉である。何事につけても分相応、士官は士官らしくあれ。
◆ 常に整理整頓を心がけよ
すべてあるべき物をあるべき時に、あるべき所に、あるべき状感でスタンバイ(用意)しておくこと。これが戦闘即応の大切な要素である。
◆ 五分前の精神を堅持せよ
日本の社会では、集合時刻などに遅れることを、何とも思わぬ風習が根強く残っている。日常の諸作業についてだけでなく、公務以外の集合についても、「五分前」を厳守するとともに、引きあげもあっさりしているのがよい。人は艦を待つも、艦は人を待たず、である。
◆ 公私の別を明らかにせよ
物品については、公用の便箋、封筒、鉛筆などのわずかなものでも、私用に供してはならない。また、部下に私用を頼む場合は、その程度を充分考えて、部下に無理を強いたり、部下の貴重な時間を奪ったりするようなことが、かりそめにもあってはならない。
◆ 他人の依頼には快く応ずる心がけを持て
依頼とは、相手の好意に依存するものである。上級者といえども強要することはできない。しかし、下級者は上級者のみならず、同僚などの依頼に対しては、職務上差し支えない限り、誠意を以て応じるのが礼である。人にしてやったことは片っぱしから忘れ、ひとからして貰ったことはいつ迄も覚えている。
◆ 物事にけじめをつけよ
当直と非番の区別を判然とさせ、非番のときには努めて緊張をほぐし、当直の場合は全責任をもって、当面の任務の遂行にあたるなど、時間的にも空間的にもけじめをつけることが大切である。当直の場合は、出来るだけ非番の人間の仕事も処理してやるように努めるべきである。
◆ 常に部下と共にあれ
いかなる仕事を命じても、必ずその終始を監督し、いわゆる放任主義に陥ってはならない。特に苦しい作業などの場合には、必ず最後まで現場にとどまり、仕事の状況によっては、風呂や夜食を用意することを考えてやれ。
◆ 部下の指導には寛厳よろしきを得よ
部下を指導するにあたり、あまりに厳格に過ぎてはならない。さればとて、寛にすぎて放任に陥ってもならない。艦をまっすぐに「宜候(ヨーソロ)」にもっていくためには、舵の取りっぱなしではダメで、「あて舵」「もどし舵」の呼吸が大事である。部下に悪いところがあれば、その場で遠慮なく注意せよ。しかし、叱る場合には、場所と相手を見てやれ。下士官を兵の前で叱るとか、正直な心の水兵をひどい言葉で叱りつけることなどは、百害あって一利なき行為である。
◆ 功は部下に譲り、部下の過ちは自ら負う。
「先憂後楽」とは味わうべき言であり、部下統御の機微なる心理もかかる処に在る。
◆ ワングランスで評価するな
誰にも長所あり短所あり、長所さえみていればどんな人でも悪く見えない。雅量を持って、先ず短所を探すより先に長所を見出すに努める事が肝要、賞を先にし、罰を後にするは古来の名訓なり。
◆ 名前を覚えよ
「オイ」とかいうのは下士官兵の人格を無視した呼び方である。記憶法は色々あるが、着任後早い時機に数名宛呼び、一人一人につき、家庭、特技等一般身上につき聴くことも一法である。
◆ 部下の能力を確認せよ
一等水兵に下士官の仕事を命じ、その結果が不満足だとして叱るのは無理である。自分の考え、或は才能を以て部下を同程度に見ることは禁物、その能力相当の仕事を命ぜよ。但し、事ある時の為の訓練にやや上級の仕事を与え之を訓練することは大いに必要なことである。
◆ 短絡(ショートサーキット)を慎め
何をやるにも、非常の場合をのぞいては、必ず順序を経てやらないと、艦(隊)の秩序が破れ、統制の乱れるもととなる。
◆ 感情に訴える様な部下指導は避けよ
いわゆる、親分、子分的な関係をつくったり、自分の好みに合った部下をつくったりすることは好ましくない。将来、誰の下についても、真面目に勤務する良い部下をつくるように心がけよ。
◆ 率先垂範の実を示せ
部下を率いるときは、常に衆に先んじて難事にあたる心構えがなければならない。また、自分が出来ないからといって、部下に遠慮、気兼ねをしたり、部下の機嫌を取ったりするようなことは禁物である。
◆ テーブルマナーは一通り心得ておけ
海外に出ることの多い海軍士官は、一人一人が「外交官」としての自覚と矜持(きょうじ)を持たなければならない。外国語の習得はもとより、食卓における作法、食卓での話題についても、水準以上のものを身につけていなければならない。
◆ 上陸して飲食や宿泊する時は、一流の店を選べ
海軍士官は品位を重んずる「種族」である。あまり下品な所に出入して、酒色の上などで士官たるの品位を失し、体面を汚すような事があれば、海軍士官全体の体面にかかわる重大事である。
◆ 部下指導の基礎は至誠なり
至誠を根本とし、熱と意気とを以て国家保護の大任を担当する干城を築造する事に心懸けよ。