私は防衛大から海上自衛隊に入隊し約40年間自衛隊で勤務しました。
この間の自分の大きな命題の1つは部下統率と強い部隊作りでした。
定年退職後に民間企業(IT関連会社:JASDAQ上場)に再就職し、人財学校長、取締役等を経験し約7年経過しました。
この間、海上自衛隊で経験したリーダーシップの取り方、強いチームの作り方のノウハウを社員教育に適用した結果、
興味深い成果を数多く得ました。
日本企業は日本人の最も得意とする愛社精神と強いチームワークに基づく強力な組織作りの着意と努力が不足しており、
歯がゆい思いをしています。
日本的強力な組織力の発揮を阻害している問題は、日常の勤務の中に多々見受けられます。
代表的な次の問題点を分かり易く説明します。
● 指揮・命令系統が滅茶苦茶で動いている不思議
民間企業に勤務して驚いたことの1つは、指揮・命令系統の乱れです。
企業の組織は元々軍隊の組織を参考として作られたもので、軍隊と同様にラインとスタッフで構成されています。
ラインとは社長―部長―課長―係長―係員の業務指揮命令系統です。
このライン上にない顧問やコンサル的な社員はスタッフです。
指揮命令系統は組織編成のラインに沿ってなされます。
ライン上にないスタッフは命令を出すことはできません。
また部長が他部門の課長に命令をだすこともできません。
命令を出した人も命令を受けた人もそれぞれ監督と実施の責任が発生します。
民間企業においてはこの指揮・命令系統が乱れている傾向が多々見られます。
これでは命令を出した人、命令を受けた人の監督と責任が不明確となります。
また、ライン上にあっても社長が直接、1課員に業務命令を出すとか、
部長が課長を飛び越えて1課員に業務の命令を出す。
これは日常よく見られる光景です。
特に口頭命令で多く見られます。
チョッとコピーをとってくれとかこの資料を破棄してくれといったものは問題ありませんが、
直属の上司のジョブ管理に関わる仕事はよろしくありません。
このような命令を「ジャンプ命令」といいます。
つまり直属の上司を飛び越えて課員に命令を出すからジャンプ命令です。
これは、緊急を要する事態においては当然必要となりますが、
その場合も命令を出す社長や部長はその旨を飛び越した中間の上司に通知し情報を共有する必要があります。
そうしないとジャンプされた上司は責任を取りようがありません。
特に日常の急を要しない業務においては良くありません。
ジャンプされた上司は、心情的にも自分は何も言われていないから関係ないと思います。
まして日頃から部下の仕事にも責任を持ち、リーダーシップを発揮しているリーダーであれば尚更です。
指揮命令・報告系統がしっかりしている組織であれば、
仮に緊急で社長から直接課員に作業命令があった場合でも、
命令を受けた課員はジャンプされた上司にその旨を報告し、
作業の実施の了解を取るようになります。
● 社員が「お先に失礼します」と勝手に帰る不思議
「お先に失礼します。」と言って退社する姿は清々しく気持ちの良いものです。
しかし上司に対して「お先に失礼します。」とだけ言って退社する社員を見ると理解に苦しみます。
対等な人間関係の中では礼儀にかなった挨拶ですが、
上司の業務命令に基づいて仕事をしている社員が上司の許可もなく仕事を終えて
「お先に失礼します。」と言って勝手に先に帰る光景は当人及びその上司の意識を疑います。
外資系の企業で英語で言わなければならない場合、あなたなら「お先に失礼します」を英語で何と言いますか?
直訳して「I’ll go back first!」と上司に言えますか?
そのように言ったら、上司から「明日から会社には来なくて結構です。」と言われるのは間違いありません。
私は「I’ve finished my work for today. Is it OK for me to go back home now? 」と言うと思います。
そして周りの同僚に対しては「I’ll finish for today, See you tomorrow!」と言って退社すると思います。
「本日の仕事は終わりました。これにて退社してよろしいでしょうか?」という1日の仕事の終了報告、
そして上司から「お先にどうぞ!」という退社の許可を得て「ありがとうございます
。それでは、お先に失礼します。」という一連の流れの中での挨拶として使わなければ一流の組織人としては失格です。
● 自分の仕事を守りたがる不思議
会社の業務活動を見ていると、これはあの人に聞かないと分からないと言った場面に遭遇します。
これも不思議でなりません。
会社の組織の所掌業務外のことであれば許せますが日常のルーティン業務でも良く見かけます。
これは会社の組織力を向上させる観点からも問題です。自分にしかできないという状態は、
自分の会社における存在意義と周囲に尊敬されるとでも思っているのでしょうか?
組織力の全幅発揮という観点からも問題です。
そのような場面で私は良く問いかけます。
あなたが急に交通事故に会ったり、病気になって会社を休まなければならなくなったら、
会社は困るのではないですか? 誰が見ても分かるマニュアルや手順書として作成しオープンしたらどうですか?と、
このように話すと、必ず返ってくる言葉があります。
自分は病気はしないとか、内容が複雑なので文章化できないという言い訳です。
このような社員は自分の業務を誰かに取られるとか、自分の仕事がなくなると恐れている人です。
このような社員に成長はありません。
自分のために仕事をしているに過ぎません。
現在の仕事を卒業して更に上の仕事を目指す社員を育てなければその組織の成長はありません。
● すぐ人手を要求し仕事を分散したがる不思議
業務量が多いから人を採用してくれとか、アルバイトを入れて欲しいという要望を良く聞きます。
このような場合、単に自分の業務を分散して欲しいとか、自分の業務量を減らしてほしいという極めて消極的な状況であることが良くあります。
こんな時こそ係長、主任等のグループ長の出番ではありませんか?
グループ長はグループ内の業務量、グループ内の業務の優先順位を決め、グループ内の人、物、
予算の全ての資源を有効に使用して業務の効率的実施に努めなければなりません。
毎朝の朝礼のあと、短時間でも良いからグループ内のミーティングを開き、
グループの業務の優先順位の指示、グループ員の力の集中等を決定し、
余裕のある社員がいれば支援をさせる等の指示をしてグループの業務が円滑に実施できるようにしなければなりません。
これは総務課の仕事、これは経理課の仕事と組織が大きくなればなるほど組織はセクショナリズムに陥る傾向があります。
これはどこの仕事と考えるのではなく、全ての各部署の仕事は会社が目標を達成するための仕事と考えれば解決することです。
小さな会社であれば1人で総務から経理の仕事もやらなければなりません。
社員が自分に与えられた仕事を行いつつ、グループ内の多忙な業務を持つ社員を手伝うグループの集まりが強い会社組織を作る上での基本です。
この形が出来るとお互いの仕事に対する尊敬、感謝の念も起き、グループのまとまり、力も強大になります。
● トップが最初に出勤する不思議
入社初日に最初に驚いたのは「社長が1番先に出社された。」ことでした。
社長は会社の経営や社員家族の保護を24時間考えておられるが故に、
出勤も最初、退社も最後の心境は良く理解できます。
しかし、このような状況では、自ら考えて仕事をする社員、自ら率先垂範して動く社員は育ちにくい。
社員は社長だけに目が向き、係長や課長よりも社長の顔色、発言に気が向くようになるのではないかと心配しました。
結果としてその傾向はでていました。
社員は勤務外の自宅であろうが、子どもと遊んでいようが、仕事のことを意識している、
いないに関わらず、仕事のことは心の深層に残っています。
そして朝出勤のために家を出た瞬間に仕事に関する現実のお懸念が表面に出て、
昨日の業績と本日の業務、チームの業務や仕事遂行上の問題等を思案し、整理しているはずです。
そこで出勤したとき社長がおられたら、どうしても受け身、指示待ちの心になってしまう。
まして上司の管理職が出勤していない状況であれば尚更です。
社長が毎日一番最初に出勤されたら、どうしても意識が社長に集中して、
自ら考え、自ら行動する社員は育たないし、係、課、部の階層的な組織を活性化させる仕組みを壊してしまうのは
明らかです。
係員→係長→課長→部長という組織が会社の目標に向かって一丸となって力を集中できる組織は
上からの業務命令と下からの報告が適時適切かつ確実になされる組織であることが基本です。
海上自衛隊護衛艦については、艦長は最後に出勤します。
何故でしょうか?
● 中途退職者に冷たい雰囲気の不思議
民間企業では新入社員に対しては教育も含め盛大な入社歓迎会が催されますが、
中途退職者に対しては余りにも冷たい対応です。
今まで会社の創業の理念に賛同し共に頑張った仲間ではないですか!
中途にして退職は残念だけど、今まで共に頑張った仲間の今後の成功を祈念して壮行できないのでしょうか?
まさに去る者は追わずといった冷たい対応です。
これは管理職である幹部社員の心の持ち方であると思います。
退職者にわざわざ時間を割いて送別会、壮行会を行うのは時間と労力の無駄と思っていませんか?
残って一緒に頑張る社員のためにも、退職していく社員の本音を聞き、
彼の前途を激励するためにも必要ではないでしょうか?
海自護衛艦では幹部の場合は士官室と幹部の所属する部門で、
下士官及び兵員の場合は所属する部門またはグループで関係下士官、幹部を招待して盛大に行います。
そして会の上位者は、今まで自衛隊で頑張ってきた経験を基に新しい道でも頑張って成功して欲しい。
近くに来る機会があったら皆に顔を見せて欲しい。・・と言ったエールを必ず送ります。
民間でいうとアルバイト社員といった任期制隊員の退職、転職に際しても当然その部門、グループで暖かく行います。
このような1人1人を大事にする職場環境が全員のやる気を促し、強いチームができる源です。
● 宴会を避ける雰囲気の不思議
最近は部門、グループ内で宴会をして盛り上がっている場面はほとんど見ません。
気の合った排他的な仲良しメンバーで、愚痴を言い合うグループの飲み会は良く見かけます。
上司が宴会を提案すると、残業手当がつくのか、会費は会社がだすのか等聞かれて困るという話も良く聞きます。
宴会の提案に対して若い社員からネガティブな反応があるのは、決して残業手当や会費の問題ではないと思います。
宴会の意味がない、時間の無駄だと思っているからではないでしょうか?
宴会で上司が威張ったり、仕事の話をグタグタ言ったり、
特定の部下をやり玉にあげたりして雰囲気の悪い宴会となっているのではありませんか。
要は上司のリーダーシップとチーム作りに問題があるから宴会に対して反発があるのではと思います。
宴会は日頃中々聞けない上司や同僚のものの考え方や日頃気づかない素晴らしい面を発見し、
上下、同僚間の信頼関係が一気に向上する最高のコミュニケ^ションの場としなければ意味がありません。
海上自衛隊の護衛艦では兎に角宴会が多い。
そして宴会は盛り上がり、最後にはスクラムを組んで一致団結頑張るぞと言った具合です。宴会の度にそのグループの連携、意思疎通が良くなっていくのが目に見えます。
そして宴会の会費や内容についても工夫すれば素晴らしい宴会=飲みニュケーションになり、チーム力も向上するのは間違いありません。
特に日本人にとっては上下左右の理解の促進と団結力の向上に宴会ほど有益なものはありません。